地震防災フォーラム2024
― 1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)から30年 ―
開催報告
主催 : 関西地震観測研究協議会(関震協・CEORKA)
共催 : 関西大学社会安全学部
協賛 : (公社)土木学会関西支部 / (公社)地盤工学会関西支部 / (公社)日本地震学会 / (公社)日本地震工学会
(一社)日本建築学会近畿支部 / (一社)建設コンサルタンツ協会近畿支部 / 関西ライフライン研究会
特定非営利活動法人リアルタイム地震・防災情報利用協議会
後援 : (一社)日本建築構造技術者協会関西支部
日時 : 2025年1月15日(水)13時30分〜17時
場所 : 関西大学梅田キャンパス 8階大ホール および オンライン(ハイブリッド開催)
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[ 司会 : 後藤浩之(京都大学,関震協広報分科会主査)・林 能成(関西大学) ]
1.開会挨拶 岩田知孝(京都大学)
岩田知孝座長より、地震防災フォーラム2024の開催が宣言された。
2.関震協と強震動研究 30 年の歩み 香川敬生(鳥取大学)
香川教授からは、関震協の歴史および観測記録の地震学への貢献について紹介がなされた。まず、1991年に関震協を設立したときのミッションや課題の解決、観測点選定の苦労などが、当時の体験に基づいて紹介された。観測点の設置が完了したのは1994年4月であった。その後、電話回線を用いた自動データ収集と情報発信システムを開発し、1994年12月の総会で大地震発生時は波形プロットに限り即時公開という方針が決められた。兵庫県南部地震の際には、電話回線が不通で記録を自動回収できず、事務局職員が自転車で大阪から神戸まで行き、記録を回収した、という大変興味深い話があった。2010年代には、データロガーを更新してイベントトリガ方式から連続観測方式へ収録方法を変更し、緊急地震速報や観測記録の即時メール配信も行うようになった。関震協の貴重な観測記録は、震源破壊過程の解明に貢献し、兵庫県南部地震の震源破壊モデルや特性化震源モデルの構築に役立ってきた。また、地下構造が地震動に及ぼす影響の解明にも貢献し、大阪平野の三次元地下構造モデルの構築と検証に活用された。今後の課題として、南海トラフ地震の長周期地震動を確実に捉えて後世に遺すこと、そのために、観測点のたゆまぬ維持管理、機器の更新に備える必要があることが強調された。
(京都大学 山田真澄 記)
3.西日本旅客鉄道の地震対策と将来展望 松田好史(西日本旅客鉄道株式会社)
西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)の松田技術顧問から、冒頭、兵庫県南部地震以降、大きな地震が発生するごとに鉄道施設の被災状況の調査・分析が行われ、必要に応じて耐震補強等に関する省令・通達が出されるとともに、耐震設計基準の改定が行われてきたことが報告された。JR西日本では、兵庫県南部地震以降、省通達を受けて「重要度の高い線区の弱い構造物は(全て)補強する。」という方針で耐震補強が行われるとともに、早期地震検知警報システム導入等が行われてきた。また、新潟県中越地震で走行中の新幹線が初めて脱線したことを受けて、脱線・逸脱防止対策がJR各社で取り組まれた。さらに、東北地方太平洋沖地震後は、南海トラフ地震に備えて、それまでの方針に「強い揺れが想定される地域の弱い構造物を補強する。」という方針を加え補強対象線区を拡大して、無筋橋脚の残留変位抑制対策、紀勢本線での避難誘導降車台、蹴破り式避難通路の整備やVRを活用した乗務員訓練等の津波対策が実施されている。また、次世代の技術者に復旧事例等を継承するため、兵庫県南部地震の時に作成した『大規模地震により被災した土木構造物の復旧に関する参考資料』の改訂が行われている。今後は、建設従事者不足、組織としての技術力低下の環境変化がさらに進む中で鉄道事業の継続性を確保するため、各系統(土木、建築、軌道、電気、車両など)が同じ土俵で被害予測を行い、対策(経営資源の配分)の優先順位を決めて、線区として地震対策を着実に推進させていく必要があることが紹介された。
(奥村組 山田直敏 記)
4.入社 30 年目の構造設計者から見た阪神・淡路大震災 山下靖彦(株式会社竹中工務店)
竹中工務店の山下靖彦氏より、「入社30年目の構造設計者から見た阪神・淡路大震災」と題して講演いただいた。講演では、地震を契機に建物の構造設計はどのように変わったのか、地震に備えるために何を伝えるべきかという2点に主眼を置かれた。地震を契機に変わったこととして、耐震改修促進法の制定、免震構造の普及、構造設計者の責務と自覚の3点を列挙された。耐震改修の観点については、法律の制定もさることながら、耐震改修を促進しようとする企業の努力が大きいこと、超高層でも耐震補強が行われる事例が増えていることが紹介された。免震構造の普及の観点については、兵庫県南部地震以降で免震建物が増加した一方で、社会に対する具体的な性能の認知は乏しいこと、ロバスト性や冗長性の拡充には課題があることが指摘された。構造設計者の責務と自覚の観点については、地震を契機に構造と社会の接点が顕在化し、互いの共通認識の欠如が明確化されたこと、姉歯事件による構造設計に対する信頼失墜ののち、将来の大地震に備えるに当たって信頼回復の途上にあることが紹介された。最後に地震に備えるにあたり、地震を正しく恐れて入念に備えることの重要性を指摘された。
(大阪大学 柏 尚稔 記)
5.平成の災害復興―阪神・淡路大震災から 30 年― 牧 紀男(京都大学)
京都大学防災研究所の牧紀男教授より、「平成の災害復興 ―阪神・淡路大震災から30年―」と題して講演をいただいた。復興について論ずる枠組みとして「公−私」(所有・費用分担)と「地域−個(すまい)」(復興事業の対象)という2軸を置き、これらを直交させてできる4象限を用いて整理しながら論じられた。この中で、昭和から阪神・淡路大震災までの復興を、公が地域を安全に再建するスキームとして総括された。すなわちトラディショナルな復興は公にあたる領域が主体であったが、一方、この30年間で私にあたる領域の復興が手厚くなるような変化があったことも指摘された。また、昭和の「近代復興」から平成の「生活再建」への移り変わりがあり、さらに令和の復興を考える必要があると述べられた。牧教授が理想とされる令和の復興とは、被災後、世界各国・日本全国からの様々な支援を地域が主体となって受け入れ、地域が災害前に描いた姿が復興で実現されるというものである。
(兵庫県立大学 平井 敬 記)
6.総合討論
最後に、地震防災フォーラムの参加者と他の基調講演をされた3名の講師をも含めた質疑が交わされ、総合的な討論が行われた。
(兵庫県立大学 平井 敬 記)
7.閉会挨拶 高橋良和(京都大学)